2013年7月7日

【Nuke】ACRO代表ボワイエさんのちくりん舎トーク


認定NPO法人「高木仁三郎市民科学基金」(高木基金)主催
   4回 放射能測定活動に関する研究交流会

201377日(日)東京都日の出町「ちくりん舎」にて




フランスのNGOACRO (Association pour le Contrôle de la Radioactivité dans lOuest 西部放射能監視協会
David Boilley(ダビード・ボワイエ)代表のお話


通訳(英語): 青木一政さん(ちくりん舎)
ノート作成: 細川弘明(高木基金)



● チェルノブイリのとき、フランス政府はフランスには放射能は「来ていない」と主張、ドイツは来ていると認めていた。たった10キロのちがいで、放射能が止まった?

実際には、フランス東部が汚染されている。(地図で説明)コルシカ島がとくに高い汚染濃度。

コルシカで甲状腺がんが増えているというレポートが、つい先週でた。コルシカ政府がイタリアの研究所に委託して調査した結果。(リンク → 概要 報告書全篇 )


● ACROは カン市 Caen(ブルターニュ)にある。
ラアーグ再処理工場の近く。毎月、海水をサンプリングして測定。

ACROの2つの役割
  1. 市民による放射能測定・監視(citizen monitoring)
  2. 原発の地元ごとにある local commission(地域委員会)からの調査受託(測定、文献調査など) ※地域委員会については、のちほど説明あり。


● フランスには放射線測定の「中央データベース」ができた。3年前。
電力会社、政府、NGOなどの測定データをすべて集約している。
クロスチェックによる認証をうけた組織のみ、このデータベースに送信できる。
ACROは認証された唯一のNGO
【★青木さん註:上記リンク先(中央データベース)の
トップページのバナーの右端の
Rechercher une mesureをクリック
すると検索ページに飛べます。

●「複雑な問題の決定をするときに民主的な決定をする」ということを目指すのが、ACROの立場。「反原発」団体ではない。
Davidさん自身は反原発だが。)


● ACROの測定体制
ゲルマニウム半導体検出器 3台
トリチウム・液体シンチレータ(ベータ線量計)
ラドンガス測定器

トリチウムは北海岸(再処理工場、複数の原発)ぞいに検出されている。10Bq/L
ヨウ素129は、ラアーグからドイツまでずっと分布

測定の意図さまざま。同じ測定器を持っていても、関心・考え方が違う。
  • 事業者 ── 設備が漏れていないかをチェックをしたい(環境のことを考えているわけではない)
  • 国 ── 環境にどれくらい放射能が拡がっているか知りたい
  • ACRO ── 市民・NGO・自治体からの質問に答えるため


ACROは、ベラルーシでも活動。EUの助成で測定所を設置。


20113月の津波(東日本大震災)のとき、たまたまACRO総会があった。
そこで、通常活動を停止して日本救援の活動を最優先することを決定。日本にラボを作ることを即決、助成金探し開始、日本ラボが立ち上がるまでACROで支援測定(日本の600検体を測った) ── グリーンピースから測定依頼された試料のみ有料測定で、あとは全部無料で測った。データはウェブサイト(acro.eu.org)で公開している。


● 日本に来たら、たくさん市民測定所ができていて驚いた。
チェルノブイリ後のヨーロッパでそんなには無かった。

シンチ(ヨウ化ナトリウム・シンチレーター)は有効だが、すべての質問に答えることできない。ゲルマ(ゲルマニウム半導体検出器、Ge検出器)、尿検査、液体シンチレータによる測定なども必要。


★ 市民による放射能測定の課題
  1. 市民による質問から始めること
  2. 信頼できるデータと専門性を確保すること
  3. すべてのデータを説明つきで公開すること
  4. 政府への影響行使、政策変更を求めること


 政府との関係
  1. 市民ラボ(年300検体くらいが精一杯)は公的機関の代替にはならない。
  2. 公共政策への影響を与えるのが市民測定の役割。
  3. データと解説は(当局からも)信頼されないといけない。
  4. 政府からの認証(quality assurance)をとりつける。
  5. 一方で、独立性は保たないといけない。


● ACROの資金調達 ── 寄附、コンサート、クリスマスバザー、パリ県(île de France)からの助成(県として日本への助成を考えて、ちょうど助成先を探していた → 赤十字とACROにそれぞれ600万ユーロ、まさしくGe検出器の値段)

福島事故後、世界に3社しかなかいGe検出器のメーカーのうち2つ(Canberra、■)は値段をつりあげた。ACROは値段あげなかったところから買った。


● フランスのマッシュルームから100Bq/kg以上の汚染(チェルノブイリ由来)が今でも見つかっている。イノシシ肉もまだ汚染されている。

ACRO(3台)とちくりん舎(2台)で5台のGe検出器。
将来の事故に備えなければならない。将来、大事故がおきたとき、この5台で市民のために最大限の対応をできるよう備えておくべき。



<以下、質疑応答・意見交換>

石森さん(小さき花 市民の放射能測定室・仙台): 市民測定所でいちばん困るのは、お母さん達にどう説明するか。「安全です」と言うのは無責任なので、僕には言えない。

Davidさん: とても難しい問題だ。フランスでは、再処理工場や原発からの放出量を減らすために測定結果をいかすことができる。しかし、日本の場合はすでに放射能が外に出てしまったので、減らすことができない。対応の考え方が違ってくる。端的に言えば、「地元の食品を食べない」という選択があなたにとってどれだけの損失で
 あるか、「その土地を離れる」ことがあなたにとってどれだけの損失であるか、私は決めることができない。市民が自分で決めることができるような情報を与えるのが役割。「離れれば安全」とわかっていても、それによって失うものを無視できない。
 ただ、国際的に確立しているルールは、「被ばくは少なければ少ないほど良い」ということだ。今年5月に発表された、オーストラリアでの大規模疫学調査で判明したのは、CTスキャンによる5mSvの被ばく(医療被ばく)でも子どものがんが増加していた、ということ。
【★ Davidより補足: CTスキャンの被ばくによる発がん
(白血病と脳腫瘍)については
昨年載った論文も参照されたし。】



大沼さん(東海ネット;高木基金) 一介の市民団体であるACROが社会や政府からの信頼性をかちとったプロセスは?

Davidさん: 10年かかった。チェルノブイリのとき、ラアーグ市民がいろいろ調べたら、チェルノブイリ以前の汚染がいろいろと判明した。それを記者会見で発表した。ターゲットはCogema(フランス核燃料公社、当時;現在のArevaの前身)。Cogemaからは、ACROはいつも大げさだと非難された。そこで、ラアーグの地域委員会がクロスチェックをすることにした。ACROの測定結果が他の公的機関で追試されて、正しい測定であることが確認された。それ以降、データそのものは文句いわれなくなった。解釈については今も非難されるが。

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「地域委員会」local commission について
 ── フランスの原子力施設の地元には必ずある。
チェルノブイリ以前から、ラアーグにはあった。
チェルノブイリ以降、全国にひろまった。
も組織されている。
 ── 構成員は、地元政治家、医師会、商工会、
組合、NGO、専門家など。2006年に法律ができて、
地域委員会の権限と予算が強化された。財源は自治体。
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【★細川補足: フランス語では Commission Locale d'Information (CLI )
といって、直訳すると「地域情報委員会」。
Davidによると全国連合の活動は非常に活発。】


細川(高木基金): 地域委員会はそもそも何のために作られたものか? PAなのか、環境配慮なのか、防災なのか?

Davidさん: 事業者からみればPA(核施設を住民に受容してもらうための広報宣伝活動)、市民からみれば監視。自治体からすれば防災の要素もある。地域委員会の存在意義は、立場によって異なる。ACROが直接言うよりも、ローカルコミッション(地域委員会)を通して同じことを言うほうが社会的影響力が大きい。
委員長は地元の政治家なので、その人のやる気しだいで、その地域のコミッションが機能するかしないかが決まる。


Aarhus conventionオーフス条約 1998
 欧州の環境基本条約(国連欧州経済委員会で制定)
この条約により、環境に影響する事案については必ず
・地元住民と協議すること(consult the population
・地元住民の意見をきくこと(take the opinion of the population
が義務づけられている。国境沿いの場合は、隣国の住民の意見も聞かないといけない。(独仏国境の原発のケースなど。)


● ACROは常勤スタッフ5名、年間予算は25万ユーロ。
政府環境省・原子力規制委員会・30の自治体などからの助成が3分の1、残りは、受託調査収入と寄附金でまかなう。市民からの測定依頼には無料で応じる。環境調査(測定、データ提供)について自治体や政府から助成をとりつける。


14:40 Davidさんとのセッション、終了。拍手・拍手・拍手 o(^-^)o

 参加者、約30名(北海道、東日本各地、名古屋、京都、岡山より)
全体で約5時間の交流会プログラムのうちの約1時間(13:44-14:40)でした。


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