2010年6月16日

【Indig/Env】生物多様性と先住民族 (10 ) (11)


『先住民族の10年News』164号と165号に掲載した拙稿を掲載します(若干、字句を手直しし、リンクも加えました)。

連載「生物多様性と先住民族」
第10回 キノア生命特許事件は薄氷の勝利(その1)
第11回 キノア生命特許事件は薄氷の勝利(その2)

著者: 細川弘明
掲載誌目次 → 年月順記事分類別
刊行者: 先住民族の10年市民連絡会


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生物多様性と先住民族(10
キノア生命特許事件は薄氷の勝利(その1)
 反実仮想であるが、筆者がもしアグリビジネスや製薬企業の中堅社員で、プロジェクトを企画・開発する業務を担当させられたとしたら、どのような発想で何に着手するだろうか。
 ヒットする商品と世界が必要とする商品は必ずしも一致しないが、両者が一致するような商品を開発できれば、利益と社会貢献(CSR!)の一石二鳥、と虫のよいことを狙うかもしれない。たとえば、食糧不足を救い、かつ栄養面でも優れていて、さらに健康食品としての特徴までも兼ね備えたような栽培種を開発し、その特許を確保できたら!
 よし、それでは、部下を使って徹底的にリサーチさせよう。ひとりの部下には、農学や植物学の文献にあたらせ、乾燥地・寒冷地・塩性地など厳しい栽培環境でも一定の収量を保っている作物品種の洗い出しをさせる。アンデス高地、オーストラリア内陸荒野、カラハリ沙漠なんかでフィールドワークをしている人類学者・生態学者の報告なんかも必ず読むのだぞ。
 別の部下には、人類学・民族学の論文や報告書を渉猟させて、さまざまな地域の「離乳食」の食材や調理・加工方法を調べさせよう。離乳食には、乳幼児がアレルギー反応をおこしにくい食材が選ばれ、栄養的にも優れたものが工夫されているはずだ。新しい健康食品を開発する素晴らしいヒントが得られるかも。
 またひとりの部下には、主要な穀物の栄養分析についてのデータを収集分析させよう。小麦、米、トウモロコシなどの栄養上の弱点をはっきりさせれば、それを補う新作物・新品種の開発戦略が立てられる。
 これらの調査や実験をふまえて各分野の専門家に相談し、有望な情報を絞り込んで、現地に人を派遣してサンプルを入手しよう。若くて意気のよい研究者には調査経費や奨学金を提供して、サンプルの分析や交配試験をしてもらおう。現地で栽培されている品種のバリエーションをできるだけ多く入手し、それらを交配させて、特性がどのように増幅できるかを調べ上げ、その情報は生命特許として権利確保しよう。。。
■キノアの交配特許
 上に空想で述べたような着想と経緯があったかどうかは定かでないが、結果的にはこれに近いような開発期待が寄せられたのが、キノア【註1】という植物であった。
 1980年代以降、欧米の複数の企業や研究機関がアンデス高地原産のこの雑穀に注目し、栄養分析、現地採種、栽培実験、交配試験をおこなってきた。日本でも90年代にはいって民間企業(製糖会社、種苗会社など)や国家機関(食総研、作物研など)で研究が活発になった。
 コロラド州立大学の研究者たちは、アンデス各地のキノア Chenopodium quinoa 44品種の育種試験をふまえ、収量を高めた特定の雄性不稔ハイブリッド種を育成した。同大はその生命特許を92年に米国特許庁に申請し、94年に認められた【註2】。それを誰がどう商品化していくかは明らかでなかったが、F1種子の商品化をめざすのと、後述するようなタンパク質分離技術の確立をめざすのと、両様の開発戦略があったものと思われる。
 キノアは、アンデス高原のハケ Jaqi 系民族(アイマラ Aymara、ハカル Jaqaru など)とウルチパヤ Uru-Chipaya 系の民族(チパヤ Chipaya など)が紀元前数千年前から栽培しつづけてきたアカザ科アカザ属 Chenopodium の植物(ホウレンソウの仲間)である。乾燥地・寒冷地でも安定した収穫がえられ、土壌塩分の高い土地でも栽培が可能である【註3】。
 栄養面では、必須アミノ酸の含有バランスが非常に良いという特徴がある(米よりもはるかに良質の蛋白源となる)。カルシウム、マグネシウム、鉄、カリウムなどミネラル分の含有量も高く、食物繊維にも富む。ビタミンB2は白米の7倍もある。また、動物実験ではキノア外皮を食餌に添加したラットで血中コレステロール濃度を下げる明確な効果が認められた【註4】。
 筆者は1978年から80年にかけて青年海外協力隊(JOCV)の派遣によりボリビア共和国で暮らしたが、町でも村でも、キノアの小さな粒々のはいったトウモロコシやチューニョ(ch'uñu 凍結乾燥イモ)のスープをいただいて体を温めるのが楽しみであった。粗挽き粉をお粥や団子にして食べることもある(アイマラの村では葉や茎も食べた)。キノア粥は離乳食でもある。
 そのときは知らなかったのだが、キノアは健康食品やアレルギー患者の代替食品としてすでに商品化されつつあり、特にボリビア高地のアイマラ農民が完全有機栽培で生産するサポニン(種子に含まれる毒分)の低い品種群は、北米や欧州で人気を博しつつあったのだ。日本でもバブル期の健康食品ブーム以降、キノア製品は定番商品として定着している【註5】。
■零細農民の勝利か?
 さて、コロラド州立大が得た特許の存在に1996年になってから気づいた北米のNGO関係者がボリビアのキノア生産者全国連合 Asociación Nacional de Productores de Quinoa (ANAPQUI)に通報し、ペルーやエクアドルのキノア生産農民(大半が先住民族系の零細農家)も加わって、98年、集中的に抗議運動が展開された。折良く国連総会開催中のニューヨークでANAPQUIの代表が意見表明する機会があり、それが社会的に注目されたこともあって、大学はキノアの生命特許更新を断念する【註6】。
 この事例は、バイオパイラシーに対して先住民族零細農民が一致団結して先進国NGOと連携して「勝利した」事例として日本でも紹介され【註7】、その後も内外のNGO資料やインド政府肝いりのTKDL【註8】でも、勝利事例として語り継がれている。
 しかし、今回この事例について幾つかの記録を仔細に検討して分かってきたのは、この事件の結末を“先住民族の勝利”と評価するのは必ずしも適切でなく、仮に白星だとしても、まさに薄氷を踏んでの形ばかりの勝利にすぎなかったのではないか、ということだ。
 そもそも、大学側が特許更新をしなかったのは、事件が社会的・国際的に注目されたこともさることながら、最大の理由は更新料を負担する予算が組めなかったことである【註6】。より潤沢な資金力をもつ大手企業であれば、あっさり更新されてしまっていたかもしれない。
【以上、第164号 pp.12-13 所収。註は最後にまとめて掲載】
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【以下、第165号 pp.12-13 所収】
生物多様性と先住民族(11
キノア生命特許事件は薄氷の勝利(その2)
 コロラド州立大が1994年に米国特許庁から承認されていたハイブリッド育種実績の特許の保護対象は、種子、植物体、交配手法、栽培技術など育種知財にかかわる生命資源と関連技術のかなり広い範囲に及ぶものであった。もし、この知財権がそのまま有効であれば、アンデス各地のキノア栽培民にとって大きな打撃になっていた可能性がある。
 というのも、特許の対象とされたハイブリッド種(それをコロラド州立大の研究者たちは、ボリビアでの最初の採種地の村名にちなんで「アペラワ品種」Apelawa/Apelahua varietyと命名していた)は、実のところアペラワ村で栽培されていた品種そのものではなく、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリなどで栽培されていた地方品種(バナキュラー変異種)を多数交配させて育種したものであり、理論的にはこれらすべての村のキノア品種がこの生命特許の規制対象とみなされうる。(もちろん、そのような知財解釈そのものが当然、熾烈な議論を招くのであるが、少なくともアンデスから北米や欧州への輸出の妨げとなる恐れはあった。)
 前号(本誌164号)で紹介したANAPQUI1998年の「勝利」はこうした生命特許の波及的破壊力に対して何ら歯止めをかけることができた訳ではなかった。このケースでは、大学側が主にコスト面での判断から特許の更新をしなかったので、結果的に先住民族農民側の抗議が実を結んだような形で決着しただけである。生命特許の是非をめぐる論議はなんら決着していないし、生命特許の法的波及力についての批判的分析が十分なされた訳でもなかった。
■続々とキノア関連特許
 その後、コロラド州立大は、キノア種子からのタンパク質分離技術について2004年に特許申請し、2009年には取得している【註9】。同じく2009年、フランスの化粧品メーカーがキノア種子に含まれる脂肪酸の分離濃縮技術について特許を世界知的所有権機構 World Intellectual Property Organization(WIPO)に申請したとの報道があった【註10】。これらの特許がただちに伝統的なキノア生産者に影響するわけではないが、ペルーの代表的なキノア研究者ムヒカ=サンチェス(Ángel Mújica Sánchez)は先進国で登録された特許が途上国の零細農民をも拘束するという国際特許の仕組みに懸念を表明している(註10の記事)。
 チリのカトリック大学・生化学工学部の研究者たちは、キノア種子の外皮から抽出した苦味成分サポニンを用いて殺虫剤(ナメクジ・カタツムリ駆除剤など)を製造する技術を開発し、これをまず米国で特許取得し、さらにWIPOを通じて国際特許化の手続きをとった【註11】。サポニンは栄養阻害成分なので、前号で指摘したようにサポニン含有度の低いキノア品種が欧州市場では歓迎されているのだが、このようにサポニン自体を資源として活用しようとする開発動向も顕著である。「毒にも薬にもなる」という言葉をまさに地でいくものと言える。
 サポニンを始めとするキノア外皮成分の生理活性については、前号(註4)にあげた論文でもコレステロール低下作用が検証されており、薬剤や健康食品としての商品化にむけて研究開発と特許取得競争が繰り広げられていることが容易に想像される【註12】。
 キノアひとつとって見ても、このような事例を列挙していくだけで何頁も続けられるほどの有様である。そのことが何を意味するのかといえば、
(1)個々の生命特許に対して先住民族やNGOがそのつど反対運動を展開しても埒があかず、そもそも件数が多すぎて到底対応しきれる筈もないということ;
(2)個々の生命特許がどのような形や程度において先住民族の利害になるのか、研究開発段階においては必ずしも明らかでない(だが、特許は早い段階で申請され取得されることが多い──どのような商品に展開していくのか開発者自身にも分からないケースも少なくない)、ということが、まず明らかである。そして、より根本的なところで、
(3)何をもって問題解決とすべきか、というビジョンが先住民族側(あるいは支援するNGOの側でも)必ずしも定まっていない、という側面も垣間見えてくるように思われる。
■利益配分の保障で事態は解決されない
 生物多様性条約(CBD)の運用をめぐる議論では、分配の公正さ・公平さが大きな論点になっている。もしそれが問題の全てであれば、生物資源・遺伝資源が生命特許と商品化を通じて生み出す経済的利益を伝統的栽培者・採集者に還元分配する(ないしは利益の損失を補償する)ルール作りで対処するのが現実的・妥協的な解決策であろう。きたる名古屋会議(COP10/MOP5)においてABS(アクセスと利益配分)が最大の議題のひとつとなっているのは、それ故である。
 だが、ここで見落とされがちなことが2つある。
 第一は、利益配分(benefit sharing)の前提がアクセス(access)の容認である、ということ。特定の生命資源・遺伝資源へのアクセスを拒絶する権利は、議論のテーブルから外されてしまっている。先住民族の一部は、その権利を留保すべく主張を展開しているものの、資源開発者=先進国側の産学セクターは、そのような主張を一顧だにしないであろう。
 第二は、資源提供者(多くの場合、途上国側)とりわけ特定の動植物の伝統的利用者(しばしば先住民族やローカルな共同体)の利益や損失について、既存の知見に即した考え方しか採用されていない、という点である。
 キノアの場合でいえば、ハイブリッド種の開発が進み、それが生産現場に投入された場合、既存の地域品種を駆逐する可能性がある(必ず駆逐するとは断言できないものの、寡占化が非常に早い速度で進みうることは経験上明らかであると言ってよいだろう)。そのことが、生産現場での経済的な構図や、あるいは自然環境との関わり方において、どのようなインパクトを持ちうるか(もちろん、地域ごとの民族関係や環境条件によって影響の質と量は異なってくる)。それを事前評価する基準や手法は、ABS論議のなかで看過されている【註13】。
 生物多様性の観点からは、利益が分配されない不公平もさることながら、人為的改変種が生態系に対して、あるいは地域固有種の安定した生息・栽培環境に対してもたらすリスクのほうがより深刻な問題である。利益分配ルールをめぐるテクニカルな交渉の隘路のなかで、そのことを忘れてしまってはならない。

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【註1】キヌアとも表記される。アイマラ語のkiñwa(キニュワ)に由来するスペイン語名quinoaで記載されることが多い。ケチュア語諸方言ではkiwña(キーウニャ)、kiwiña(キウィーニャ)などの音位転換形も聞かれる。
【註2】米国特許5304718 (http://j.mp/aKpqLa)
【註3山本紀夫2004「キヌア 知られざるアンデスの雑穀」『月刊みんぱく』9月号pp.20-21.なお、同じアカザ属の栽培種でケチュア語でkañawi(カニャーウィ)と呼ばれる作物も、その耐寒性・耐霜性が注目されている。
【註4】高尾哲也1999「キノアの成分と生理活性」『食の科学』253pp.52-58.
【註5キノアの穀粒、植物体、製品パッケージなど、画像リンク http://bit.ly/9VfXqcを参照。
【註6Rural Advancement Foundation International (RAFI), 1998, Quinoa patent dropped: Andean farmers defeat U.S. university. RAFI Genotype, May 22, 1998.RAFIは現在「ETC Group」という団体名で活動を継続している。http://www.etcgroup.org
【註7】月刊『オルタ』19987月号p.26に掲載の短信「ペルー 作物への特許取り消しに成功した農民」(※なお、『オルタ』の記事でカナダに本部のある旧RAFIを「デンマークの市民団体」としているのは間違いで、RAFIと連携してアンデス・キノア農民を支援していたデンマークのIBISとの混同)。
【註8伝統知識デジタルライブラリー(www.tkdl.res.in。先進国や多国籍企業によるバイオパイラシーに対抗するためインド政府の主導で構築された知財データベース。
【註9】米国特許番号7563473
【註10】ペルー紙 La República 200926日記事 http://bit.ly/bcXbmd
【註11WIPOの国際出願番号 PCT/US2008/ 06157720084月出願)。研究資金は米国の製薬会社から出ていたのではないかと推測されるが、確認できていない。
【註12】現に、註4の論文を執筆した研究者が所属する食品企業では既にキノアが商品化され(http://www.dmsugar.co.jp/products/p_quinua)、開発段階でのさまざまな知見、技術、成分組成などが特許取得されている。
【註13】キノアの場合、前号で説明したような理由で、原産地アンデス以外の農業困難地域(寒冷地、乾燥地、塩性地など)に導入されていく可能性も小さくない。そのことが対象地の農業環境や住民にどのようなインパクトをもたらすか、これも事前評価が欠かせないだろう。ただ、これについては、従来の環境影響評価(EIA)と社会影響評価(SIA)の土俵で対処することが一応は可能。
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※なお、掲載誌のハードコピー(PDFファイル)は、こちらからダウンロードできます。

2010年5月15日

【NGO】 UN Human Rights High Commissioner takes issue with the T2 arbitrary trial


Here is an English translation of the Asahi Shimbun news report on the official visit of the UN Human Rights High Commissioner to Japan

For the background and the ongoing points of argument of the case,

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Asahi (National) May 15th, 2010

UN Human Rights High Commissioner concerned about whale meat trial, "Investigation by NGO is important"

On 14 May, Navanethem Pillay, UN Human Rights High Commissioner, visiting Japan, expressed her concerns about the ongoing trial of two Greenpeace Japan members arrested and prosecuted for alleged theft of whale meat. Commissioner Pillay pointed out that the case was an issue of rights of freedom of expression and that of association.

She expressed the concern in an interview with Asahi newspaper. Those two were arrested for theft of whale meat from a warehouse of the transportation company. The box containing the meat was sent by a crew member to their homes. In the trial, the accused justified their conduct by claiming "it was to expose embezzlement by the crew members ".

Ms Pillay said, "The ability for NGOs to carry out investigations is very important for society, not only the Greenpeace case, but it should be respected in general. "

On the other hand she highly praised the fact that Prime Minister Hatoyama, whom she met on the 13th, said he was working to establish a human rights committee that would be independent from the Government. "More than 100 countries including 15 countries in the Asia Pacific region have already established such committee. A Human Rights Committee can give assistance in cases of human rights violations", she emphasised.

Article written by Daisuke Furuta
Appeared on Pg 8 International Section (with picture of Commissioner)

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The translation was provided by Sara Holden, Greenpeace International, with a minor amount of additional corrections and editing by Hosokawa K.

The original Japanese text of the article follows:

朝日新聞 2010年5月14日朝刊 第8面(国際)

国連人権弁務官 鯨肉裁判を憂慮 「NGO調査は重要」

(ピレイ氏の写真)

 来日中のナバネセム・ピレイ国連人権高等弁務官は14日、日本の調査捕鯨を告発する環境NGO「グリーンピース・ジャパン」のメンバー2人が、鯨肉を盗んだ罪で逮捕、起訴され、公判中の事件に関して「言論と結社の問題だ」と語り、懸念を表明した。

 朝日新聞との会見で発言した。2人は捕鯨船員が土産として自宅に送ろうとした鯨肉を運送会社の倉庫から盗んだとして逮捕された。公判では「船員による鯨肉横領を告発するためだった」と正当性を主張している。

 ピレイ氏は「NGOによる調査は、社会にとって重要な役割。グリーンピースに限らず、一般的に尊重されるべきだ」と話した。

 一方、13日に会談した鳩山由紀夫首相が、政府から独立した人権委員会の設置に取り組んでいる、と話したことを高く評価。「すでにアジア太平洋の15カ国を含む100カ国以上が設置している。人権委は、人権侵害の救済に役立つ」と強調した。

(古田大輔)

2010年4月30日

【Nuke】日印原子力協力に反対する要望書


 日・印両政府は本日(2010.4.30)ニューデリーで開催される両国「エネルギー対話」において原子力分野の協力に向けた協議に入るとされている。しかし、核兵器製造保有国・核実験実施国であるインドへの原子力協力は、いかに「民生用」「平和利用」の衣をまとわせようとも、核不拡散防止条約の取り決めに対する公然たる背反行為であり、経済技術協力の美名のもとに進めることは許されない。


 本日、憂慮する市民や専門家の連名により、下記の要望書が日本政府に提出された。


この要請書についての問い合わせ先

   原子力資料情報室 (伴英幸、西尾漠)

   電話 03-3357-3800 FAX 03-3357-3801

   メール cnic@nifty.com

   ウェブサイト http://cnic.jp/


以下、要望書の文面と賛同署名者一覧
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2010年4月30日

 内閣総理大臣 鳩山由紀夫様

 外務大臣 岡田克也様

 経済産業大臣 直嶋正行様



<日・インド原子力分野の協力に向けた協議に反対する要望書>


 日・印両政府は本日ニューデリーで開催される両国間の「エネルギー対話」において原子力分野の協力に向けた協議に入るとされている。2008年9月6日、原子力供給国グループ(NSG)は、米印原子力協定締結に関する米国の意向を受けて、インドを例外として扱うよう、そのガイドラインの変更を決定した。インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟していない。したがって同国の原子力活動は、民生用・軍事用ともに国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置下にはない。そのためNSGは、インドとの原子力取引を禁止していたが、ガイドラインの変更により認められるようになった。この決定直後の2008年10月にインドのシン首相が来日した際、日印は原子力協力の協議に入るものと見られていたが、結局、見送られた。その理由を、麻生太郎総理大臣(当時)は次のように述べている。


「日本を含むNSGは9月にNPTに加盟していないインドへの民生用原子力協力を例外的に認めることを承認したが、ただ唯一の被爆国である日本の承認は予想以上に国民の反発が強かった。」「国民を納得させるのに時間がかかる。」「国民の合意を得るまでには時間がかかるだろう。」(日本経済新聞、2008年10月20日付け夕刊)


 インドへの民生用原子力協力をめぐっては、現在も「国民の合意を得た」と言えるような状況にはなく、ヒバクシャをはじめ、私たち日本の国民は「納得していない」。私たちは以下のような理由から、本日開催される「日印エネルギー対話」において原子力協力の協議を開始することに強く反対する。


1)インドの例外扱いはNPTに基づく核不拡散体制を根底から覆す核拡散防止条約(NPT)の「交換条件」の一つは、核兵器を持たないとの約束と引き換えに、原子力面での協力を約束するというものである。そして、1995年NPT再検討・延長会議が採択した『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』は、NPTの認める5つの「核兵器国」(米英ロ中仏)以外への核関連輸出に関しては「IAEAの包括的保障措置を受諾し、かつ、核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的な拘束力のある約束を受諾することを要求すべきである」としている。つまりは、NPT加盟国以外との原子力協力を禁じている。(これは米国の先導によって先に確立されていた NSGの規則を受け入れたものである)。NPTに加盟せず1974年と1998年に核実験を行い、現在も核兵器を製造し続けているインドに対し、原子力面で協力するというのは、NPT体制を根底から覆す行為である。「被爆国」日本は、このような行為に加担すべきではない。

 またインドを例外扱いするダブルスタンダードは、NPT非加盟国のパキスタン及びイスラエルと、NPTから脱退した北朝鮮に対し「前例」を提供する危険性があることを、世界の核廃絶運動は警告してきた。実際、パキスタンは国連軍縮会議(CD)で核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に強く反対しているし、パキスタンとイスラエルは原子力協力を求めるなど、警告は現実になっている。日本政府は、こうしたダブルスタンダードを助長するような行為を、厳に慎むべきである。


2)インドのずさんな放射性物質管理が示す安全軽視

 インドでは放射性物質管理の不備にともなう作業従事者の被曝などが頻発している。最近も、たとえば2009年11月24日、インド南部のカイガ原発でトリチウム汚染された水を摂取した従業員が体内被曝した事例が報告されている。また今年4月7日には、コバルト60に汚染された金属を扱った作業者が、急性放射線障害のためにニューデリーの病院に緊急入院している。この作業者の被ばく線量は3.7グレイだった。これは国際原子力事象尺度のレベル4にあたる。


 この5月にはニューヨークでNPT再検討会議が開催される。その直前に、NPTに加盟していないインドと原子力協力に向けた協議に入ろうとする日本政府に、はたして核廃絶の先頭に立つ意思と資格があると言えるだろうか。またインドとの原子力協力は、日本政府が国際協力の要件として掲げる原子力の3S(安全、安全保障、セキュリティ)にも反する。これらの原則を捻じ曲げてまで国内原子力産業の利益を優先する日本政府の欺瞞的な態度に、私たちは強く抗議するとともに、インドとのエネルギー協力は自然エネルギーや省エネ技術などの分野に限定するよう求める。



青木 克明 (核兵器廃絶をめざすヒロシマの会)

青柳 行信 (NGO人権・正義と平和連帯フォーラム福岡 代表)

石丸 初美 (プルサーマルと佐賀県の100年を考える会)

片岡栄子 (ふぇみん婦人民主クラブ 運営委員)

川崎 哲 (ピースボート 共同代表)

菊川 慶子 (花とハーブの里)

木口 由香 (特定非営利活動法人メコン・ウォッチ)

小林 栄子 (日本熊森協会福岡県支部 会員)

佐藤 大介 (ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン)

茂垣 達也 (日本生協連商品本部家庭用品部)

設楽 ヨシ子 (ふぇみん婦人民主クラブ 共同代表)

篠原 弘典 (みやぎ脱原発・風の会 代表)

芝野 由和 (長崎総合科学大学長崎平和文化研究所)

清水 規子 (国際環境NGO FoE Japan)

田中 靖枝 (波風の会)

豊島 耕一 (佐賀大学理工学部教授)

内藤 雅義 (日本反核法律家協会 理事)

長峰 直子 (空と海の放射能汚染を心配する市民の会)

新倉 修 (日本国際法律家協会会長・青山学院大学教授)

伴 英幸 (原子力資料情報室 共同代表)

藤本 泰成 (原水爆禁止日本国民会議 事務局長)

星川 淳 (グリーンピース・ジャパン 事務局長)

細川 弘明 (アジア太平洋資料センター 共同代表)

柳田 真 (たんぽぽ舎 共同代表)

湯浅 一郎 (ピースデポ 代表)

横原 由紀夫 (広島県原水禁 元事務局長)

吉田 遼 (NPO法人セイピースプロジェクト 代表)

三陸のさんま・わかめを愛する会

東北アジア情報センター


2010年4月20日

【Nuke】 "原発"に揺れる町(2009)

 上関原発計画に反対する祝島(いわいしま)の漁民・農民たち、推進派の住民の思い、そして揺れる島の若者たちを描いたNHK山口放送局制作の番組を YouTube で見ることができます。

 昨年9月から10月にかけて、中国電力が着工(ブイ入れ)を強行しようとして、漁民たちと支援のカヤック隊が体を張って工事をとめていた前後に取材されたもので、2009年11月13日に山口県内でのみ放映されたもの。これが全国放送されない(させない)ところに、NHKの闇を強く感じます。公共放送を標榜するなら、これを全国の人に届けなければ話にならん。
(11月15日の再放送では、中国地方全体に拡大されたそうですが。)



NHK山口放送局制作 2009年11月13日放映(山口のみ)

「"原発"に揺れる町 ── 上関原発計画・住民たちの27年」


YouTubeには、3つのピースに分けてアップされています。

それぞれ8分前後、合計25分です。ぜひ見て下さい。

そして、多くの人に伝えましょう。


【part 1】(8:18)

http://www.youtube.com/watch?v=1EwQHB-Iqp8&feature=related


【part 2】(8:57) 

http://www.youtube.com/watch?v=qr3h-iHdMCc&feature=related


【part 3】(7:35)

http://www.youtube.com/watch?v=9BiGlHvjFg8&feature=related




2010年4月17日

【indig/Env】 生物多様性と先住民族(9)

先住民族の10年News』連載「生物多様性と先住民族」第9回の原稿を公開します。
紙面ではリンクのURLも明記されています。連載第8回までは、小生の公開サーバにアップしてあります。


生物多様性と先住民族(9)ITを薬籠にいれた森番

 先月、京都大学で開かれたシンポジウム「コンゴ盆地森林居住民の文化と現代的課題」に参加した。森の狩猟採集民ピグミーの研究で有名な市川光雄さんの退官記念に開催されたもので、アフリカ中央部の熱帯雨林の人類文化と生態系との関係を調査している研究者が大勢集まった。
 筆者はアフリカには全く土地勘のない人間で、熱帯林研究についても素人にすぎないが、それでもこのシンポに足を運んだのは、ジェローム・ルイス博士が参加すると主催者から教えてもらっていたからだった。ジェロームとは面識はなかったものの、先住民族支援と生物多様性保全とを実践的にリンクさせた彼の仕事には以前から注目していた【註1】。シンポで彼の講演【註2】を聴き、そのあと個人的に意見交換することができた。その知見を交えて、生物多様性保全戦略への地元共同体の参加と技術支援のあり方について、考えてみたい。

■強いられる非持続的な開発

 アフリカ中央部の熱帯雨林地帯(広義のコンゴ盆地)は、狩猟採集、焼畑移動農耕、小規模漁撈など、生物多様性と密着して暮らす人々がいると同時に、猛烈なスピードで伐採が進むなど、生物多様性破壊の最前線でもある。東部(とくにルワンダ)と南部(とくにカタンガ)では複雑な内戦や抗争が長年続き、人々の暮らしと自然環境に大きな負荷がかかっている。
 大規模伐採を進める主要な勢力は欧米に本拠をおく多国籍企業であるが、その木材の多くが辿りつくのは欧米よりもむしろ中国・日本である。内戦地域では武装勢力の資金源として密伐や無秩序な鉱山開発が横行する。
 ジェロームが指摘していたのは、世銀・IMFの「構造調整プログラム」の影響である。途上国の財政を強引に「自立」させる施策として、コンゴ盆地の豊富な森林資源“活用”が先進国や国際機関から強く要請され、コンゴ(旧ザイール)やカメルーンの中央政府から発行される伐採許可証は激増している。国連のミレニアム開発目標(MDG)ですら伐採林業を奨励している。要は木材輸出で外貨収入を得るのだが、森の住民にとっては生存の危機である。

■脅かされた「知的優位」

 熱帯林の伐採とひとくちに言っても、経済性の高い樹種を確保したり、伐採キャンプのロジを整えたり、搬出ルートを効率よくするためには事前の現地調査が必要となる。以前であれば、コンゴ盆地の深いジャングルに案内人なしに踏み込むことは考えられなかった。
 アフリカ中央部の各地に居住するピグミー諸民族は、森のガイドとして定評があった。狩猟採集を通じて森の隅々まで熟知した彼らは、行政官、宣教師、人類学者、探鉱師など様々なヨソ者を森に案内してきたが、ジェロームが講演で述べたように、誰をどこに案内するか/しないかは(案内される側がそれに気づくかどうか別として)ピグミー側がある程度コントロールすることができた。実力行使でヨソ者を拒絶しようとしても、武力的・政治的に圧倒的に弱いピグミーは逆に蹴散らされてしまう。森を知り尽くしているという「知的優越」こそが自分たちの領域を守る有効な武器であったのだ。
 全地球測位システムすなわちGPS登場で、この状況が一変する。ナビや携帯でお馴染みの、あのGPSである。衛星写真の利用が簡便化したことも相まって、ヨソ者たちはもはや森の民を雇わなくても森の奥深く分け入って、思いのままとまではいかずとも、地元民の「非協力」など気にかけず勝手な「調査」をすることが技術的に可能となったのである。
伐採企業の請負人たちはGPSを最大限活用して着々と踏査を進め、構造調整の大義名分のもと政府から大盤振る舞いされる伐採許可を競ってとりつけていった。

■森の民がITを手に

 危機感を抱いたピグミーたちが強く意識したのが「地図のちから」であったとジェロームは指摘する【註3】。自分たちしか知らないはずの森なのに、政府の役人や伐採業者や人類学者は、みな何種類もの地図を持ってきて、自分たちの欲しいものがどこにあるのか、そこに書き入れていく。役人が地図に線を一本ひいて示すと、自分たちはそこから先に行くことが許されなくなってしまったりする。
 2003年、ジェロームが環境NGO【註4】の協力のもと、カメルーン南部のバグエリ・ピグミー(BaGyeli, BaKola)にGPS機材を提供し、彼ら自身に森の地図を描いてもらうプロジェクトを開始したとき、森の民には「地図を描くちからを自分たち自身が手に入れなければ森が守れない」という思いがすでに熟していたかのようであった。
 GPS機材の近年の小型化・簡便化には瞠目すべきものがある。ジェロームらはこれに、IT経験のない人でも簡単に操作できるアイコン型のインターフェイス(註3参照)を組み合わせることで、森の民に優れた闘いの手段を提供したのである。現在カメルーン各地で、バーカ・ピグミー(Ngola Baka他)はじめ地元住民がGPSを手に熱帯林をパトロールしてまわり、要所要所で情報入力し、それらを自動的に地図化していくプロジェクトが展開している【註5】。
 狩猟採集民が自分たちの土地をGPS探査することで、まず第一に、違法伐採の場所と実態が確実に記録されるようになった。業者が指定された伐採区の外側でも操業している場合が多いことが明らかになった。許可条件に反する操業実態(樹齢の若い樹を伐ったり、丸太を現地選別して搬出しないものを放置したり)も判明した。製材した板に産地を不実記載しているケースも具体的に把握された。
 また、狩猟採集民の活動(移動)範囲を精確に地図に投影することができるようになり、政府が策定する国立公園や保護区などとの位置関係や開発動向との関係が明確かつ迅速に把握できるようになった。これによって、ピグミーの土地権主張は原理的正当性に加えて、戦略性を伴うようになった。
 GPSを携えたピグミーたちの見回りによって解明された伐採実態は、政府が言い訳程度に設ける森林保護区や動物保護区などのパッチ状のゾーンが、生物多様性保全上ほとんど効果を持たないという重要な事実をも物語っている。

【註1】ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の社会人類学講師(日本でいう「教授」にあたる)。ラジカル人類学者集団(RAG)の中心人物のひとり。IWGIAやMRGIなど先住民族支援の国際組織との連携をとりつつアフリカ中央部(ルワンダ、両コンゴ、カメルーンなど)で狩猟採集民の実地調査を続けている。オンライン雑誌『Before Farming』の編者としても活躍。WWFなど一部の国際NGOが先住民族の権利を無視した環境保護プログラムを展開することに対する厳しい批判者としても知られる。今回の講演でもカメルーンの事例としてWWFの雇ったエコ警備員(武装民兵)によるピグミー迫害を非難していた。

【註2】 Jerome Lewis, 2010, Pygmies and the GPS in Central Africa: what has happened and where is it leading? 京都大学アフリカ地域研究資料センター国際シンポジウム「コンゴ盆地森林居住民の文化と現代的課題」2010年3月13日、京都大学稲森財団記念館。


【註4】Forest People’s Programme (FPP)、Centre pour l’environment et développement (CED) など。

【註5】最近では、ピグミー自身が入力項目の提案やアイコンの意匠を考えるようになったとのこと。資金はNGOの支援や英国外務省や欧州連合からの助成金が充てられているという。