2010年2月15日

【Aust/Nuke】マラリンガ返還とイミュー訴訟

 雑誌『オルタ』2010年1+2月号の原稿です。3月初旬刊行かな。


核実験の土地を先住民族に全面返還

               細川弘明


 1950年代から60年代前半にかけて、英国はオーストラリア各地で大気圏核実験をおこない、多くのヒバクシャ(アボリジニー、豪陸軍兵士、英軍兵士)をうんだ。アボリジニーは土地を追われ、汚染された実験場は半世紀にわたって封鎖され、実態のよくわからない「除染作業」が続けられ、一部の土地はアボリジニーに返還されたり、代替地が提供されたりしてきた。

 そしてこのほど、南オーストラリア州の旧マラリンガ実験場のなかで放射能濃度がもっとも高いとされる「セクション400」という約3km2の区域が南オーストラリア州政府から正式にアボリジニーに返還され、20091218日、現地で返還式がとりおこなわれた。マラリンガ出身のアボリジニーや近親者あわせて数百名が式典に参加し、州総督から証書を受け取った。人々は涙につつまれたが、この日を見ることなく亡くなった人も多い。

 これで旧実験場のすべての土地がアボリジニーに返還されたことになる。土地は先住民法人「マラリンガ・チャラジャ」の共同所有となり、希望する人は移住地からここに戻って暮らすこともでき、そのための支援も受けられる。しかし現在も放射能レベルが高いため封鎖されたままの地区もある。

 英国はマラリンガでの一連の実験に先立ち、同州内陸部イミューフィールドで2回の大気圏核実験(長崎型原爆)をおこなっているが、その放射能汚染による健康被害の補償を求め名のアボリジニーが今年になって英国で提訴した。その弁護団長をひきうけたのが、なんとシェリー・ブレア弁護士(トニー・ブレア前首相の妻)だということで話題になっている。訴訟を支援する南オーストラリア州の「アボリジニー法律権利運動」(ALRM)のニール・ギレスピーはABC放送のインタビューに答えて、さらに100名近いアボリジニーが原告に加わる準備をしていること、ブレア弁護士が2月から4月にかけて訪豪し、詳しい調査をおこなうことを明らかにした。

 先住民族によるこの動きと並行して、エイボン・ハドソンら元兵士のヒバクシャも英国政府を訴える準備をしており、ブレア弁護士は彼らの代理人もつとめる意向であるという。

*本稿は、ABC放送2009年1111日、1218日、123日のニュースにもとづき構成。ALRMは、オーストラリア連邦の先住権原法(NTA1993 / 2009)で定められた「先住民族の地域代表組織」(RB)の認定をもつNGOである。オーストラリアでの核実験については、平凡社『世界民族問題事典』増補版の「マラリンガ」の項を参照されたい。



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