2010年4月30日

【Nuke】日印原子力協力に反対する要望書


 日・印両政府は本日(2010.4.30)ニューデリーで開催される両国「エネルギー対話」において原子力分野の協力に向けた協議に入るとされている。しかし、核兵器製造保有国・核実験実施国であるインドへの原子力協力は、いかに「民生用」「平和利用」の衣をまとわせようとも、核不拡散防止条約の取り決めに対する公然たる背反行為であり、経済技術協力の美名のもとに進めることは許されない。


 本日、憂慮する市民や専門家の連名により、下記の要望書が日本政府に提出された。


この要請書についての問い合わせ先

   原子力資料情報室 (伴英幸、西尾漠)

   電話 03-3357-3800 FAX 03-3357-3801

   メール cnic@nifty.com

   ウェブサイト http://cnic.jp/


以下、要望書の文面と賛同署名者一覧
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2010年4月30日

 内閣総理大臣 鳩山由紀夫様

 外務大臣 岡田克也様

 経済産業大臣 直嶋正行様



<日・インド原子力分野の協力に向けた協議に反対する要望書>


 日・印両政府は本日ニューデリーで開催される両国間の「エネルギー対話」において原子力分野の協力に向けた協議に入るとされている。2008年9月6日、原子力供給国グループ(NSG)は、米印原子力協定締結に関する米国の意向を受けて、インドを例外として扱うよう、そのガイドラインの変更を決定した。インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟していない。したがって同国の原子力活動は、民生用・軍事用ともに国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置下にはない。そのためNSGは、インドとの原子力取引を禁止していたが、ガイドラインの変更により認められるようになった。この決定直後の2008年10月にインドのシン首相が来日した際、日印は原子力協力の協議に入るものと見られていたが、結局、見送られた。その理由を、麻生太郎総理大臣(当時)は次のように述べている。


「日本を含むNSGは9月にNPTに加盟していないインドへの民生用原子力協力を例外的に認めることを承認したが、ただ唯一の被爆国である日本の承認は予想以上に国民の反発が強かった。」「国民を納得させるのに時間がかかる。」「国民の合意を得るまでには時間がかかるだろう。」(日本経済新聞、2008年10月20日付け夕刊)


 インドへの民生用原子力協力をめぐっては、現在も「国民の合意を得た」と言えるような状況にはなく、ヒバクシャをはじめ、私たち日本の国民は「納得していない」。私たちは以下のような理由から、本日開催される「日印エネルギー対話」において原子力協力の協議を開始することに強く反対する。


1)インドの例外扱いはNPTに基づく核不拡散体制を根底から覆す核拡散防止条約(NPT)の「交換条件」の一つは、核兵器を持たないとの約束と引き換えに、原子力面での協力を約束するというものである。そして、1995年NPT再検討・延長会議が採択した『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』は、NPTの認める5つの「核兵器国」(米英ロ中仏)以外への核関連輸出に関しては「IAEAの包括的保障措置を受諾し、かつ、核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的な拘束力のある約束を受諾することを要求すべきである」としている。つまりは、NPT加盟国以外との原子力協力を禁じている。(これは米国の先導によって先に確立されていた NSGの規則を受け入れたものである)。NPTに加盟せず1974年と1998年に核実験を行い、現在も核兵器を製造し続けているインドに対し、原子力面で協力するというのは、NPT体制を根底から覆す行為である。「被爆国」日本は、このような行為に加担すべきではない。

 またインドを例外扱いするダブルスタンダードは、NPT非加盟国のパキスタン及びイスラエルと、NPTから脱退した北朝鮮に対し「前例」を提供する危険性があることを、世界の核廃絶運動は警告してきた。実際、パキスタンは国連軍縮会議(CD)で核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に強く反対しているし、パキスタンとイスラエルは原子力協力を求めるなど、警告は現実になっている。日本政府は、こうしたダブルスタンダードを助長するような行為を、厳に慎むべきである。


2)インドのずさんな放射性物質管理が示す安全軽視

 インドでは放射性物質管理の不備にともなう作業従事者の被曝などが頻発している。最近も、たとえば2009年11月24日、インド南部のカイガ原発でトリチウム汚染された水を摂取した従業員が体内被曝した事例が報告されている。また今年4月7日には、コバルト60に汚染された金属を扱った作業者が、急性放射線障害のためにニューデリーの病院に緊急入院している。この作業者の被ばく線量は3.7グレイだった。これは国際原子力事象尺度のレベル4にあたる。


 この5月にはニューヨークでNPT再検討会議が開催される。その直前に、NPTに加盟していないインドと原子力協力に向けた協議に入ろうとする日本政府に、はたして核廃絶の先頭に立つ意思と資格があると言えるだろうか。またインドとの原子力協力は、日本政府が国際協力の要件として掲げる原子力の3S(安全、安全保障、セキュリティ)にも反する。これらの原則を捻じ曲げてまで国内原子力産業の利益を優先する日本政府の欺瞞的な態度に、私たちは強く抗議するとともに、インドとのエネルギー協力は自然エネルギーや省エネ技術などの分野に限定するよう求める。



青木 克明 (核兵器廃絶をめざすヒロシマの会)

青柳 行信 (NGO人権・正義と平和連帯フォーラム福岡 代表)

石丸 初美 (プルサーマルと佐賀県の100年を考える会)

片岡栄子 (ふぇみん婦人民主クラブ 運営委員)

川崎 哲 (ピースボート 共同代表)

菊川 慶子 (花とハーブの里)

木口 由香 (特定非営利活動法人メコン・ウォッチ)

小林 栄子 (日本熊森協会福岡県支部 会員)

佐藤 大介 (ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン)

茂垣 達也 (日本生協連商品本部家庭用品部)

設楽 ヨシ子 (ふぇみん婦人民主クラブ 共同代表)

篠原 弘典 (みやぎ脱原発・風の会 代表)

芝野 由和 (長崎総合科学大学長崎平和文化研究所)

清水 規子 (国際環境NGO FoE Japan)

田中 靖枝 (波風の会)

豊島 耕一 (佐賀大学理工学部教授)

内藤 雅義 (日本反核法律家協会 理事)

長峰 直子 (空と海の放射能汚染を心配する市民の会)

新倉 修 (日本国際法律家協会会長・青山学院大学教授)

伴 英幸 (原子力資料情報室 共同代表)

藤本 泰成 (原水爆禁止日本国民会議 事務局長)

星川 淳 (グリーンピース・ジャパン 事務局長)

細川 弘明 (アジア太平洋資料センター 共同代表)

柳田 真 (たんぽぽ舎 共同代表)

湯浅 一郎 (ピースデポ 代表)

横原 由紀夫 (広島県原水禁 元事務局長)

吉田 遼 (NPO法人セイピースプロジェクト 代表)

三陸のさんま・わかめを愛する会

東北アジア情報センター


2010年4月20日

【Nuke】 "原発"に揺れる町(2009)

 上関原発計画に反対する祝島(いわいしま)の漁民・農民たち、推進派の住民の思い、そして揺れる島の若者たちを描いたNHK山口放送局制作の番組を YouTube で見ることができます。

 昨年9月から10月にかけて、中国電力が着工(ブイ入れ)を強行しようとして、漁民たちと支援のカヤック隊が体を張って工事をとめていた前後に取材されたもので、2009年11月13日に山口県内でのみ放映されたもの。これが全国放送されない(させない)ところに、NHKの闇を強く感じます。公共放送を標榜するなら、これを全国の人に届けなければ話にならん。
(11月15日の再放送では、中国地方全体に拡大されたそうですが。)



NHK山口放送局制作 2009年11月13日放映(山口のみ)

「"原発"に揺れる町 ── 上関原発計画・住民たちの27年」


YouTubeには、3つのピースに分けてアップされています。

それぞれ8分前後、合計25分です。ぜひ見て下さい。

そして、多くの人に伝えましょう。


【part 1】(8:18)

http://www.youtube.com/watch?v=1EwQHB-Iqp8&feature=related


【part 2】(8:57) 

http://www.youtube.com/watch?v=qr3h-iHdMCc&feature=related


【part 3】(7:35)

http://www.youtube.com/watch?v=9BiGlHvjFg8&feature=related




2010年4月17日

【indig/Env】 生物多様性と先住民族(9)

先住民族の10年News』連載「生物多様性と先住民族」第9回の原稿を公開します。
紙面ではリンクのURLも明記されています。連載第8回までは、小生の公開サーバにアップしてあります。


生物多様性と先住民族(9)ITを薬籠にいれた森番

 先月、京都大学で開かれたシンポジウム「コンゴ盆地森林居住民の文化と現代的課題」に参加した。森の狩猟採集民ピグミーの研究で有名な市川光雄さんの退官記念に開催されたもので、アフリカ中央部の熱帯雨林の人類文化と生態系との関係を調査している研究者が大勢集まった。
 筆者はアフリカには全く土地勘のない人間で、熱帯林研究についても素人にすぎないが、それでもこのシンポに足を運んだのは、ジェローム・ルイス博士が参加すると主催者から教えてもらっていたからだった。ジェロームとは面識はなかったものの、先住民族支援と生物多様性保全とを実践的にリンクさせた彼の仕事には以前から注目していた【註1】。シンポで彼の講演【註2】を聴き、そのあと個人的に意見交換することができた。その知見を交えて、生物多様性保全戦略への地元共同体の参加と技術支援のあり方について、考えてみたい。

■強いられる非持続的な開発

 アフリカ中央部の熱帯雨林地帯(広義のコンゴ盆地)は、狩猟採集、焼畑移動農耕、小規模漁撈など、生物多様性と密着して暮らす人々がいると同時に、猛烈なスピードで伐採が進むなど、生物多様性破壊の最前線でもある。東部(とくにルワンダ)と南部(とくにカタンガ)では複雑な内戦や抗争が長年続き、人々の暮らしと自然環境に大きな負荷がかかっている。
 大規模伐採を進める主要な勢力は欧米に本拠をおく多国籍企業であるが、その木材の多くが辿りつくのは欧米よりもむしろ中国・日本である。内戦地域では武装勢力の資金源として密伐や無秩序な鉱山開発が横行する。
 ジェロームが指摘していたのは、世銀・IMFの「構造調整プログラム」の影響である。途上国の財政を強引に「自立」させる施策として、コンゴ盆地の豊富な森林資源“活用”が先進国や国際機関から強く要請され、コンゴ(旧ザイール)やカメルーンの中央政府から発行される伐採許可証は激増している。国連のミレニアム開発目標(MDG)ですら伐採林業を奨励している。要は木材輸出で外貨収入を得るのだが、森の住民にとっては生存の危機である。

■脅かされた「知的優位」

 熱帯林の伐採とひとくちに言っても、経済性の高い樹種を確保したり、伐採キャンプのロジを整えたり、搬出ルートを効率よくするためには事前の現地調査が必要となる。以前であれば、コンゴ盆地の深いジャングルに案内人なしに踏み込むことは考えられなかった。
 アフリカ中央部の各地に居住するピグミー諸民族は、森のガイドとして定評があった。狩猟採集を通じて森の隅々まで熟知した彼らは、行政官、宣教師、人類学者、探鉱師など様々なヨソ者を森に案内してきたが、ジェロームが講演で述べたように、誰をどこに案内するか/しないかは(案内される側がそれに気づくかどうか別として)ピグミー側がある程度コントロールすることができた。実力行使でヨソ者を拒絶しようとしても、武力的・政治的に圧倒的に弱いピグミーは逆に蹴散らされてしまう。森を知り尽くしているという「知的優越」こそが自分たちの領域を守る有効な武器であったのだ。
 全地球測位システムすなわちGPS登場で、この状況が一変する。ナビや携帯でお馴染みの、あのGPSである。衛星写真の利用が簡便化したことも相まって、ヨソ者たちはもはや森の民を雇わなくても森の奥深く分け入って、思いのままとまではいかずとも、地元民の「非協力」など気にかけず勝手な「調査」をすることが技術的に可能となったのである。
伐採企業の請負人たちはGPSを最大限活用して着々と踏査を進め、構造調整の大義名分のもと政府から大盤振る舞いされる伐採許可を競ってとりつけていった。

■森の民がITを手に

 危機感を抱いたピグミーたちが強く意識したのが「地図のちから」であったとジェロームは指摘する【註3】。自分たちしか知らないはずの森なのに、政府の役人や伐採業者や人類学者は、みな何種類もの地図を持ってきて、自分たちの欲しいものがどこにあるのか、そこに書き入れていく。役人が地図に線を一本ひいて示すと、自分たちはそこから先に行くことが許されなくなってしまったりする。
 2003年、ジェロームが環境NGO【註4】の協力のもと、カメルーン南部のバグエリ・ピグミー(BaGyeli, BaKola)にGPS機材を提供し、彼ら自身に森の地図を描いてもらうプロジェクトを開始したとき、森の民には「地図を描くちからを自分たち自身が手に入れなければ森が守れない」という思いがすでに熟していたかのようであった。
 GPS機材の近年の小型化・簡便化には瞠目すべきものがある。ジェロームらはこれに、IT経験のない人でも簡単に操作できるアイコン型のインターフェイス(註3参照)を組み合わせることで、森の民に優れた闘いの手段を提供したのである。現在カメルーン各地で、バーカ・ピグミー(Ngola Baka他)はじめ地元住民がGPSを手に熱帯林をパトロールしてまわり、要所要所で情報入力し、それらを自動的に地図化していくプロジェクトが展開している【註5】。
 狩猟採集民が自分たちの土地をGPS探査することで、まず第一に、違法伐採の場所と実態が確実に記録されるようになった。業者が指定された伐採区の外側でも操業している場合が多いことが明らかになった。許可条件に反する操業実態(樹齢の若い樹を伐ったり、丸太を現地選別して搬出しないものを放置したり)も判明した。製材した板に産地を不実記載しているケースも具体的に把握された。
 また、狩猟採集民の活動(移動)範囲を精確に地図に投影することができるようになり、政府が策定する国立公園や保護区などとの位置関係や開発動向との関係が明確かつ迅速に把握できるようになった。これによって、ピグミーの土地権主張は原理的正当性に加えて、戦略性を伴うようになった。
 GPSを携えたピグミーたちの見回りによって解明された伐採実態は、政府が言い訳程度に設ける森林保護区や動物保護区などのパッチ状のゾーンが、生物多様性保全上ほとんど効果を持たないという重要な事実をも物語っている。

【註1】ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の社会人類学講師(日本でいう「教授」にあたる)。ラジカル人類学者集団(RAG)の中心人物のひとり。IWGIAやMRGIなど先住民族支援の国際組織との連携をとりつつアフリカ中央部(ルワンダ、両コンゴ、カメルーンなど)で狩猟採集民の実地調査を続けている。オンライン雑誌『Before Farming』の編者としても活躍。WWFなど一部の国際NGOが先住民族の権利を無視した環境保護プログラムを展開することに対する厳しい批判者としても知られる。今回の講演でもカメルーンの事例としてWWFの雇ったエコ警備員(武装民兵)によるピグミー迫害を非難していた。

【註2】 Jerome Lewis, 2010, Pygmies and the GPS in Central Africa: what has happened and where is it leading? 京都大学アフリカ地域研究資料センター国際シンポジウム「コンゴ盆地森林居住民の文化と現代的課題」2010年3月13日、京都大学稲森財団記念館。


【註4】Forest People’s Programme (FPP)、Centre pour l’environment et développement (CED) など。

【註5】最近では、ピグミー自身が入力項目の提案やアイコンの意匠を考えるようになったとのこと。資金はNGOの支援や英国外務省や欧州連合からの助成金が充てられているという。