環境市民20周年記念セミナー
地域から持続可能な社会をつくる
── 100%再生可能へ! 欧州のエネルギー自立地域
2012年7月18日(水)
於:ハートピア京都 大会議室
村上敦さん(環境コンサルタント、ドイツ在住)
池田憲昭さん(森林環境コーディネーター、ドイツ在住)
滝川薫さん(環境ジャーナリスト、スイス在住)
杦本育生さん(NPO「環境市民」理事長)
司会 下村志津子さん(NPO「環境市民」)
Ustやインターネットでの中継はしないでください、との主催者の要請があったので、会場からの連投はせず、お話をききながら入力したメモを、セミナー終了後にまとめて公開することにしました。ついつい中継ツイート調の書き方になってしまっていますが、悪しからず。
(お話しされた皆さんに、まだ内容確認をしていただいておりません。今後、訂正・追加などあるかも知れません。文責・細川ということで、ご了解ください。)
- 欧州の再生エネルギー普及の1番のポイントはおカネ。平均世帯の年間エネルギー支出、年間30万円(ドイツ・スイス・オーストリアなど)、小さな自治体規模で考えても十数億のお金が毎年エネルギーに支払われる。この金額をいかに地域内にとどめるか、地域外の企業に吸い取られないようにするか。小さな保守的な共同体で「自然エネルギー100%」というようなコンセプトが実践に至ったのは、この「お金を地域内に留める」というのが大きなインセンティブだった。
- ドイツであれば、ロシアや北海油田に支払うのでなく、地域内の林業者に支払う、というような選択。
- 地方の過疎化、農村部の疲弊、石油の値上がり、といった要因が背景にある。“何の取り柄もない”小さな村では、企業を誘致するというビジネスモデルはもう成立しないし、公共事業で食っていくというのも展望がない。じり貧の世の中になってきたとき、地方の小自治体にとって、外に払うお金を減らし、地元で循環させるというのが合理的な選択。
(1)池田憲昭さん「木質バイオマスの有効利用」18:27-18:58
- 南西ドイツ、フライブルク大学で森林環境学を学んだ。ドイツ在住十数年。森林資源のエネルギー利用についてお話しする。
- 独日を比較すると、ドイツより日本のほうが森林資源のポテンシャルは大きい(面積、1ヘクタール蓄積、生長量)。持続可能な年間の利用量でいうと、ドイツ実測8立米(m^3)/ha、日本推計12-14立米/ha(1haあたりの生長量x0.7) ── 元金に手をつけず利子だけを使う、という比率。面積をかけた総量でいうと、ドイツ8000万立米、日本は人工林のみで1.2-1.4億立米(人工林1000万ha、天然林1500万ha)cf.日本の国内木材需要1.1億立米
- ドイツの林学者が見ると、日本の森の土はとても豊か。
- 中央ヨーロッパの林地の生産性の高さの秘密のひとつは道路。林道が水の流れをコントロールしている。沢水を道路の路肩でいったん横に受け止めて、勢いを弱めてから暗渠で下に流す。林道は等高線に沿って整備。
- 中欧の木質バイオマスは熱利用が中心(8割)、薪・ペレット・チップ・
- 薪ボイラーは自動化が難しい。薪の集積場があちこちに。チップ・ボイラーは自動化が可能。50kW以上のボイラーで数世帯の地域暖房。
- 発電利用の場合は、不均質ガスの発生、燃料の安定供給、過剰な熱発生のため熱利用の受け皿がととのわない、などの問題がある。バイオマスの発電利用はこれらの制約ゆえに少ない。
- 薪は地元におカネがおちる。ペレットは工業製品なので、地元からおカネが出てしまう場合もある。ペレットは木質のなかでは最も燃料費が高いが、石油・ガスと較べると圧倒的に安い。ゆえに石油・ガス・ボイラーからペレット・ボイラーへの切り替えが進んだ。石油・ガスが今後安くなることは考えにくい。
- 木質と太陽熱のコンビネーション。石油・ガスと違って、点火消火が随意にできない。熱を溜めるしくみが必要。太陽熱利用との組み合わせで、あまり大きくないペレット・ボイラーを設置。冬場のピーク需要にあわせると大きなボイラーが必要だが、太陽熱との組み合わせで大きさを抑制できる。
- 林地の枝葉、土壌の貴重な栄養分(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)。バイオマス利用による土壌劣化の危険を避けるため、樹皮・枝・樹冠などを林地に残す措置を推奨。土壌をしっかり守ることがバイオマスの持続利用の条件。
- ドイツの林業就業人口132万人(cf.自動車産業75万人)、年間売り上げ1800億ユーロ(GDPの5%)。日本はドイツよりも森林資源量ポテンシャルが大きい。
- 森林木材クラスター雇用の場は、製材合板工場、木材加工(家具など)、木材手工業(工務店、内装業)、パルプ産業など。全部熱利用してしまうと、これらの産業が育たない。製材合板工場の残材の有効活用を追求するのがよい。なるべく森の地各区に小規模の製材工場を立地させる(5000〜2万立米規模を想定)。林地残材は水分を含む不均質な資源、
- 森だけで日本のエネルギーをすべて賄おうとすると、森林や土壌の劣化を招く。他の再生エネとの組み合わせを組むことが重要。地熱のポテンシャルもバイオマスより大きいだろう。足りない分をバイオマスで補う、といった設計を。
- 木材のカスケード利用: 楽器・工芸品>家具・建具>建築用材>木質プラスチック>木質ボード>紙>燃料。燃やすのは最後の手段、かつ熱利用を中心に。カスケード利用が持続的利用の決め手。
- 日本の場合、人工林の複相化も課題。
(2)滝川薫さん「スイス都市部における未利用エネルギーの利用」19:00-19:29
- スイスは、九州くらいのサイズ、750万人、気候は東北に近い。
- 先進地域としてバーゼル都市州などの事例を紹介したい。
- 未利用エネルギーは「環境熱」(空気熱、地下水、水道、河川、湖、地中熱)と「廃熱」(ごみ焼却熱、下水熱、機器廃熱)
- スイス、再生エネが2割、水力12.2、バイオマス4.3、環境熱1.2、ごみ2.4
- 環境熱はヒートポンプで温度を上げ、全館暖房に使うのが一般的。戸建て新築では87%にヒートポンプ設置(うち4割が地中熱)。ヒートポンプに要する電気1あたり2〜4倍のエネルギーを確保。電力需要の4%がヒートポンプ、これが冬のピークに重なるのがデメリット。生電気暖房(ヒートポンプを使わずに電力で暖房をすること)は多くの州で禁止されている。現状では生電気暖房6%、生電気給湯4%、これらをヒートポンプで代替していくことにより、電力総需要を抑制可能。
- 地中熱利用、高効率で任期。フリークーリング(地中熱をヒートポンプを介さずに直接利用)も一般的になりつつある。太陽熱温水器との組み合わせ。ヒートポンプの電源は光発電。全体としてゼロエネルギー(使う電力を上回る電気を供給し、効率的に熱利用)。
- チューリッヒ市営電力公社、ヒートポンプの電源を再生エネでまかなう。排熱利用をすすめる。湖水熱を用いた地域冷暖房システムを設置。
- ごみ焼却熱、1991年から熱利用を義務づけ。すべての焼却場で電熱併給が基本。郊外ではなく町のなかにあるので、地域熱供給が基本。都市の主要熱源となっている。
- 現状ではスイス全国のエネルギー熱効率は40%台、これを70%台に高めていくのが目標。
- 下水熱利用、ヒートポンプで地域冷暖房。大きな処理場の近くの大きな施設(建物)で使うようにエネルギー・マスタープランで調整。eg.ルツェルン駅前のオフィスとホテル、市(エネルギー公社)からの働きかけで保険会社が施主となり設置。
- 下水処理場の処理後水を地域にまわして熱利用している例(チューリッヒ市)。
- 両市ともマスター・プランで下水熱利用の指定地区を定めている。下水熱の直接回収(建物内)もおこなわれている。
- 利用促進をささえるのは ── 1化石燃料への炭素税、2建物の断熱義務、3自治体ごとのエネルギー供給マスタープラン(GIS)の策定、地図に落とし込み、建設条例で義務づけ、4市営エネルギー公社の存在(独立採算の公営企業)、エネシフの建設・運転・仲介調整など
- バーセル都市州の先進事例。19.2万人。人口密度の高い都市。住民投票1973で「原発の電気を使わない」と決定。電気については100%再生エネを実現。州環境エネルギー部、商工会議所、エネルギー公社の三者がエネシフを牽引してきた。電力への「補助金税」再生エネ&省エネの補助財源、1の補助金で8〜20倍の投資が地元企業に還元される効果。
- IWB社(州営インフラ・エネルギー公社、100%州有)、ガス石炭原子力による大型発電所への出資は禁止。100%再生エネ(9割水力、残りごみ、光、風力、木質バイオ) ── 周辺広域との連携
- IWB社の地域暖房(熱供給網)長さ200km、4.5万世帯に接続(工場、学校、病院、一般家庭)、熱源の6割がCO2フリー(ごみ43%,木質バイオマス12%,など)
- リーヘン市では温泉水による地域暖房網、IWBとリーヘンしの合資会社。シュトゥッキセンター(工場の再開発地区、店舗、ホテル、オフィスなど(汚泥焼却の排熱、夏は冷房(吸収式冷凍機)、冬は暖房、排熱だけで5000世帯に熱供給。
- ビンニンゲン市(バーゼル市地域)での事例、河川熱・下水熱・ガスコジェネの組み合わせで地域暖房
- サンクトコンブ地区(バーゼル市地域)の事例
- 多種多様な熱源を効率的に組み合わせる、建物単位ではなく地域暖房を組む、自治体が中心に促進(マスタープランが重要な役割)、地域密着型のエネルギー会社、ヒートポンプの電源は再生エネで賄う、コージェネも必ず組み合わせる。都市部では100%再生可能な熱供給が可能、熱は都市の宝!
休憩 19:30-35
(3)村上敦さん「なぜ欧州は、エネルギー自立ができたのか?」19:35-20:07
- 風力や太陽光で発電がんがんやります、という話ではない。余ってる熱や残材を有効利用するというケチケチで細かい話、小さい設備を積み上げていく。そうしないと地元の雇用や産業が生まれない。メガ設備をどか〜んと作る方式だと地域でおカネが回らない。
- エネルギー自立の動きは欧州では30年前くらいから始まった。デンマークなど。当時は石油価格安かったので、何をしているんや、という受け止め方が一般的。しかし、今や、エネルギー自立に早く取り組んだところほど地域経済が順調。
- スイスは小さな国のわりには各地域毎の多様な事例がみられる。保守的で地域分散の精神が強いのと、うまく噛み合っている。
- 以下、ドイツの場合。kWh=¥(キロワットアワー・イズ・マネー)夏に出す新しい本のタイトルです(^_^;)
- エネルギー価格、毎年3-5%、複利であがっていく、と考える。たいへんな支出。eg.長野県(210万人)、年間5300億円がエネルギー費用として県外に流出。cf.県の農業産出額2,623億円、観光消費額3,349億円。
- 日本は2050年には国土の6割で地域人口が半減
- 2030年には基盤インフラ維持のため、今の約2倍のお金が必要
- 世界的に燃料枯渇、残りの原油の可採埋蔵量は1.1〜1.4兆バレル、ブラジル沖など7000mの海底で掘削、メキシコ湾も3000m深。エネルギー費用の高騰は始まったばかり。
- ドイツのエネルギー政策: 熱6割、うち2割は産業用。断熱することで大幅な削減。電気2.5割の0.5は産業用熱、0.5は産業用動力、消費抑制は困難、再生エネで支える。交通政策はあまりドイツのまねしないほうがよい。
- ドイツのエネルギー戦略目標(エネルギーコンセプト2010)、CO2排出を劇的にエラしていく。再生エネの比率2030年までに50%、2050年までに80%。
- ドイツでは保守政党がこういう政策をとる。なぜか? 地域経済界の突き上げが強いから。再生エネが主流になったのは、
- 毎年2%ずつエネルギー利用効率化することが大前提。
- 優先順位1は建物(新築時)の省エネ: ミニマムスタンダード(新築燃費基準)の推移、1984年に義務化、年年厳しくなっている。日本では北海道だけでとられている政策。新築に義務づけることで、設計ノウハウが蓄積する。省エネ建材が普及し価格低下する。新築は建物のほんの一部なので、すぐにエネルギー総量抑制されるわけではないが、ノウハウ蓄積と価格低下によって、既築分のリフォーム(エネルギー改修)に影響する。毎年40万戸が改修、安定した仕事として確立。エネルギー改修の経済効果は大きい。消費税が大きい(19%)ので、国としても補助金を回収できる!
- ドイツ、のべ床面積は増加しているが、使用エネルギーの総量は減っている。年間1.5兆円ずつ節約している勘定。しかし、建物の省エネはひとまわりするのに40年かかる。
- 優先順位2は高効率化: 地域暖房による熱源の集中、コジェネによる熱効率向上、地域の熱需要マップの作成(1haあたり何MWhの熱が使われているか、1軒1軒の聞き取り調査をふまえ、地図で可視化する) → 地域暖房でまかなう計画をたてる。ボイラーの更新時期を把握して、集中化をはかる。小規模でも大規模でも、熱供給をやりくり。
- コジェネの電気も電力会社に買い取り義務。
- FIT法(1991年施行)や3%の再生エネ電力が20%に。風力と光で大半。この2つは不安定電力。安定供給がなかなかできない。年間電力供給のわずか4%の光発電が、7月頃のピークには全グリッドの40%を埋めてしまう!冬には風力で同じことが起こる。いずれの季節も、グリッドが過負荷でブラックアウトしないようにピークカットをしている実態(ソーラーや風車のスイッチを切る)。余った電気が大量。そこでpower to gas(余った電気でガスをつくる;水を電気分解して水素ガスを作っておく、CO2とまぜて人工メタンガスにして、パイプラインに混ぜ込む)
- 順番は明確: 省エネと効率化が先、それで足りないところを再生エネで補う。
(4)杦本育生さん「原発のない、持続可能な社会をいかにつくるか、環境市民の戦略提案」20:08-20:35
- 3名の方のお話の共通点: 経済の話、地域が鍵。
- 未曾有の経済危機、貧富の拡大
- 持続可能な開発の条件である環境・経済・社会の3つともガタガタ。
- スウェーデンは「持続可能発展省」を設置
- バックキャストとビジョンこそが肝腎
- 「アジェンダ21」の28章 地域の参加協力が決定的。スウェーデンやドイツはこれが大きく影響。日本はほとんどしてこなかった。京都はローカルアジェンダ決めたが、不十分。
- 政策転換は地域から起こる。公害もそうであった。これを忘れてはいけない。
- ドイツの小都市の商店街と日本の地方都市の商店街の大きな違いは、いる人の数。「住むに値する町」をつくるというビジョン。自動車が無いと住めない町は「住むに値するか」?というような議論をした(エッカーンフェルデ、環境首都) → 自転車と自動車の共存、車椅子でふつうに買い物ができる中心街区、といった形を実現。
- ひとつの政策を縦割りをこえてやっていく(環境政策/雇用政策/...というふうに分断しない)。
- スウェーデンのハンマルビー・シェースタード、同じライフスタイルをとりながらエネルギー消費を半減させてしまった。
- ドイツの環境税(電力税、燃料税) → 年金保険料率の低減、雇用を生む。環境政策と雇用促進をくみあわせる方式。
- 日本の再生エネルギーのポテンシャルはきわめて大きい。「資源小国」は嘘。化石燃料で考えると小国、しかし再生エネならばエネルギー大国になれる。再生エネの投資額、日本はG20中11位(1位は中国)。
- 原発を生み出した経済と、原発を必要としない経済のしくみ、パラダイム・シフトが必要。技術偏重・利益偏重には原子力がうってつけ → 逆のパラダイムを求めていく。地域主権・情報共有・自立開放型の発展。文明転換という視点で進めないとだめ。
- エネルギー資源の購入(輸入)にあてる支出を国内産業にまわしていくことが重要
- 京丹後市、バスの運賃上限200円を設定したら、利用者が増え、赤字縮小しつつある。長崎市電はいまでも均一120円。
- 「環境首都コンテスト」の実践をへて、自治体との戦略的協働ネットワークを結成(11月予定)。地域から率先例をつくっていく。こんなことが出来るという事例を増やしていく。既存制度や法律が障害になる → 制度改正の必要性を明確にしていく。
- 「グリーン・ウォッシュ」をなくそう! 311後の東芝の広告“自然エネルギーを上手に使う新しい社会の船出です” ── 日本は「環境広告」が世界一多い国だが、内容はむちゃくちゃ、言いたい放題、根拠まるで無し!
閉会挨拶: 堀孝弘さん(NPO「環境市民」事務局長)
- 報告は刺激的だったが焦りも感じる。日本の現状を思うと、「原発は危ないからやめましょう」という面だけでなく「原発よりも良いものがこんなにたくさんある」というところを是非、シェアしていきたい。
- エネルギー環境政策のパブコメ、ぜひ意思表示をしましょう。
- NPO「環境市民」は20歳の誕生日むかえました。記念入会キャンペーンもやってます。活動に参加したり、イベントに参加したり、いろいろな形で関わっていただければ!
20:43 終了